<その1>

 イーターという雑誌をやっている地引さんとは昔からの知り合いで、かれこれ20年前からの付き合いになる。まだイーターなんてこの世になく、彼がゴジラレコードだかテレグラフレコードだかで、ノンバンドやチャンスオペレーションといった愛しいレコードを制作していた。

 私といえば下北沢五番街というレコード店の店長で、ステージもあったもんだからS-KENや絶対零度のライブなんかを勝手にやってた不良店長だったんです。まあ、お互い青年将校同士だったんです。来るべきインディーズ戦争前夜の根拠なき熱情のただなかにいた者同志としては、いささか金儲けに無知なアホ同士のような気がするけど、アホはアホなりにどこか合するところがあったりして、商談による関係性のみの付き合いでない生き方が出来そうだなあ…なんて、まったりとした超社会的事業を夢みてしまったのだこれが。貧乏の始まり。


写真:渡辺 正

 地引さんのぼんやりとしたたたずまいにやられて、フジヤマなる自主盤をメインにしたショップを三軒茶屋のはずれにオープンして早16年。いろんな事があったけれど、なんにもなかったような気もするし。半身不随で始まった店だけど未だ完治せず、金策に追われる毎日。笑うしかない。こんなんです、私の夢の16年なんて、って溜め息ついてる場合じゃない。 先日、草加の地引宅に遊びに行くと、綺麗な奥さんと人なつこい猫が迎えてくれてなんだかいい感じ、ズルイぞ地引さん。幸せ薄いゾこの私。昔、じゃがたらのアケミと話しした時、どうやって生活してるんだいと聞いたら、アケミ曰く親の仕送りだよと返されて、なんだか三人で大笑いしたじゃないか。地引さんだって西荻の小汚いアパートだったじゃないか。皆が貧乏、これ貧乏に非ず。

 それがどうだろう、綺麗な奥さんと猫ときたもんだ、加えてそのうち年金入るだと。特別リッチじゃないけれど、その精神的ゆとりが羨ましい。それに比べてこの私、とっても悲しい気分です、って同情かってる時でもない。オンボロの50CCダックスでカビ臭いどうしょうもない自分のアパートに戻ってじっとしてたら、どんよりするばかり。

 私のトホホなくらしぶりは見る人が見れば見事なもんだと思われるかも、しんない、どどいつ、日本舞踊、って、なんだか調子良くなってきた。もしかしてコレってヤケクソな状態? せめて人並みにせにゃならんな私の生活、って、たそがれてはみたものの、それでどうにかなるでもなし、ここはひとつ空元気、そうだ、こんな時こその音楽だ。それも怒りの音楽だ、ってなわけで非常階段のNO PARIS NO HARMをターンテーブルに乗せたはいいけど、JOJOの呑気な顔を思い出して怒るに怒れない。

  こんな時友人はダメだ知らないヤツがいい、アーチー・シェップとビル・ディクソンが共演した BYG盤をボリューム12時にして一人唸ってたら、ちったぁ動脈ビクビクしてきたゾ。あんまりうるさいからなのか、天井裏の対角線をガサガサなにやら走る音、ヤな感じ、ネズミの野郎だ、なんて部屋だ六畳一間の風呂なし鼠付きか、落ち込むゾ。 もう嫌だ、こうなったら安売りだ、フジヤマ商品全品10%OFF SALEだ、しかも11月いっぱいずーっとやってやる。そんで小金つかんでせめて風呂つきに引っ越しだ。うーんポジティブだ、とっても。

 

2000年11月 6日

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