第三信(2001年8月) 「まんがサンテ」が仕上がるまで

 漫画の第二弾として、十一年前に角川書店から刊行した小説本「サンテ」の漫画化を、まんだらけの社長より依頼された。原作本のあるものを漫画にするのがこんなに大変なこととは知らなかった。

 僕は「サンテ」という本の文体に愛着が強い。本気になって書いたものの始めての作品であった。従ってその文章をすべて漫画にも入れたかった。

 絵を描いてている時はそれ程疲れを感じないのに、文章を入れるのにはひどく疲れた。細かい字で、まずシャープペンで下書き、その上をサインペンでなぞっていく…。一ヵ月半かかった。いつもの異常な集中力である。ところが大幅な書き直しを命じられた。字が多すぎるというのだ。

 そこで新しい絵を何点も書き足し、一コマの文章を少なくした。新しい絵には、それに合った文章を書かなければならないので、大方、一冊の小説本の文章を三通りは書いたことになる。内容もほぼ暗記してしまう。


イラスト:佐川一政

 一ヵ月半の作業で疲れが残っていたところに、この書き直し。十四、五時間、トイレにいくのも忘れて毎日描きつづけた。最後の一週間は完全に徹夜状態。どういう訳か体の疲れ切った時に、一番いい絵が描けるので止められないのだ。

 そして遂にダウン。手が動かなくなり、横になっても眠れない。食事もとれなくなり、ひどい吐き気に苦しめられた。ハリ、お灸、マッサージをしても直らず、精神科に急行。催眠薬と精神安定剤をもらい、その足で内科に行って吐き気止めと栄養剤の点滴を受けた。

 しかしここで一つ不思議なことがある。こんなに疲労困憊しているのに、どういう訳か性欲だけは奇妙な程激しくなった。目にする若い女性と片っ端からセックスしたくなった。

  「まんがサンテ」は遅くとも十一月までには出る。こんな裏話しがあったことも、読みながら、想い出してくれたら幸いである。一つの作品を産み出すのに、著者がどんなに追いつめられるものか、少しでも知って頂けたら……。

追記−やっと仕上がったと思って編集者に渡すと、またもや書き直しを命じられる。ありゃーとがく然として、古川さんにお会いしに行ったところ、微笑で迎えてくれてまずはほっとした。絵を描くのはほとんど疲れを感じないで楽しく描けるのですが、原作本の文字を写すのがとても辛かったと言うと、じゃあ、文字は活字にして、直しを入れた部分を絵にして下さいと言われ、心の底からほっとした。これでようやく夜眠れそう。


八月二十七日  佐川一政(さがわいっせい)
  

 


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